フリントは風に舞う。

アニメ語りメイン。出崎、富野好き。実写は目下勉強中。

新海誠 『言の葉の庭』を観た

 

 

公開:2013年
監督・脚本・原作:新海誠
音楽:KASHIWA Daisuke

新海誠監督の『言の葉の庭』を観た。これで新海作品は全て視聴したことになる。率直な感想としては、非常に満足のいくものだった。

 

新海誠作品では毎度のことながら、やはり風景の描写が美しかった。「雨」をモチーフとした作品だけあって、水たまりの輝り返し、雨の表現が特にに美しかった。かつてアナログ時代では、水の表現はアニメが最も苦手としてきた部分である。それがここまで描写できるようになるとはと感慨を得た。風景画だけのレイアウトなど、単純に「自然」を切り取っただけなのに非常に情感を感じられる。アニメならではの魅力のようなものを感じた。

 

本作は新海誠作品において、最も現実感を感じさせるフィルムだった。新海誠は、この「現実感」に対し、「ファンタジー」っぽい側面も持っている。異世界を描いた『星を追う子ども』が顕著だが、そのほかにも『ほしのこえ』や『雲のむこう、約束の場所』がそうである。現実世界を舞台としたリアルな作品として『秒速5センチメートル』があるが、それ以上に本作『言の葉の庭』のほうが現実感があるなと感じた。

そうした「現実感」を強調するのが、実在する企業の商品やロゴだ。
ユキノが好んで飲む金麦、明治の板チョコ、Z会メガネスーパーetc……。新海は、明らかに意図的にこれらを登場させている。企業とのタイアップもあるが、おそらく作品に「リアリティ」を出すためのものだと考えられる。これによって「俺にもユキノのような美人と運命的な出逢いがあるかも!」、そうした妄想が膨らんできた。

 

ヒロイン・ユキノが非常に魅力的なキャラクターであった。マンガ的な記号っぽい感じではなく、「その辺にいそう」な感じも良い。たしかにタカオが指摘したように“ズルい女”ではあるが、チョコが大好きだったり、昼間からビールを飲むなど、「ダメな感じ」があって、愛嬌がある。あとは、花澤香菜の可愛らしい声による部分も大きい。やっぱり花澤香菜はいいなー。
主人公のタカオも好感を持てるキャラでよかった。タカオは、自分の夢にひたむきで、ユキノに対しても真っ直ぐな好意を向ける。さらにユキノに対する強い想いから、彼女を無断欠勤に追い込んだ女に向かって平手打ちをする。良い子なんだけど嫌味はなく、思わず応援してしまいたくなるような男の子だ。

 

新海誠が描く「大人」は 「リアルないやらしさ」があっていい。これは前作『星を追う子ども』を観たときにも抱いた印象である。アニメで大人が描かれる際、たとえば子どもの憧れとして「理想化」されていたり、逆に「悪いヤツ」へと下賤化されていたりする。つまりステレオタイプになりがちなのだ。だが、新海誠に登場する大人には、現実世界にいるような「等身大の大人」としての印象を感じられる。

新海誠は大人を描く際に、あるアイテムを用いる。それは「タバコ」と「ビール」だ。このふたつは、子どもが使用することが出来ない、まさに大人を象徴としたアイテムだ。と同時に、どちらも体に害を与えるなど、「負」の面も併せ持っている。新海誠における大人の、「リアルないやらしさ」というのは、この「タバコ」と「ビール」に集約されているように感じる。
タカオを都合よく利用するユキノ、若い男と関係を持っているタカオの母、このふたりはビールを飲む場面が印象的であった。さらにユキノの元恋人の教師は、ベランダでタバコを吹かしていた。前作『星を追う子ども』に登場する森崎や主人公の母もタバコを嗜んでいた。やはり、新海誠は大人を描くときに、この「タバコ」と「ビール」を意図的に用いている。

 

ユキノのナマ足を計測するシーンがメチャクチャエロかった。かつて観たこともない映像で度肝を抜かれた。ただ単に女の脚を触ってるだけなのにあんなフェティシズム溢れる映像になるとは。実写の俳優ではなく、アニメのキャラクターだからこそ、倒錯したエロティシズムが生じて、よりエロく感じるのかもしれない。

 

エンディングに関しては、『秒速5センチメートル』のようなもっと苦い感じのラストを想像していたが、けっこう爽やかな感じで意外だった。爽やかでありつつも、ちょっとした「切なさ」もあっていい。秦基博のエンディング曲も、作品の世界観と見事に調和していて良かった。これぞ新海誠! という感じの良いラストだった。

 

視聴前に新海誠作品として期待していた部分に、ちゃんと応えてくれた感じ。表現もだいぶこなれてきたような印象を受けた。嫌な言い方だけど「これが欲しかったんだろ?」というような印象も受けた。
全体としては、かなりよかった!