フリントは風に舞う。

アニメ語りメイン。出崎、富野好き。実写は目下勉強中。

新海誠監督 『雲のむこう、約束の場所』 レビュー

 

雲のむこう、約束の場所

公開:2004年11月
監督・脚本・製作総指揮:新海誠
音楽・天門

ほしのこえ』に引き続き、新海誠作品を見た。
男と女のパーソナルな問題が、平行世界の侵食によって世界にまで重大な影響を及ぼすという内容は、まさに「セカイ系」である。
物語序盤、三人が過ごした日々何気ない日常が丁寧かつ思い入れたっぷりに描かれる。前作『ほしのこえ』でも、主人公ふたりが過ごした夏の日々がかけがえのない日々として描写されていた。共通した要素であるが、本作は前作以上にノスタルジック成分が強いと感じた。
本作は個人制作でつくられたアニメであり、やはり作画のレベルはそこまで高くはない。そうした欠点を補うため、顔の芝居を見せないような演出が巧妙になされていた。たとえば、キャラクターではなく背景が大きなウェイトを占める構図や、カメラをキャラクターの後ろに配置したり、顔が見えないほどの超ロングショットしたり。
新海誠作品に共通する物語要素のひとつとして「郷愁」があげられる。そうしたノスタルジックな気分を誘う物語を構築するために、背景に重きを置いた映像演出は非常に有効だ。なぜならば、人間の記憶や思い出は「風景」によって強く記憶されるからだ。新海誠作品を見ていると、自分の中の懐かしい記憶が心の底から立ち上ってくる。それはノスタルジックを感じさせる美しい美術によるものだろう。
ラストシーンは、情緒的でありちゃんとカタルシスが得られてけっこう好き。オープニングで佐由理はいないイコール彼女は現実世界に戻れなかったと解釈するのが正解なのだろうか。それでも、ラストシーンのあの瞬間、たしかに彼らの心は通じ合っていた。であれば、あのエンディングは、私にとってはハッピーエンドである。
まとめとしては、『ほしのこえ』と共通する要素がかなり多かった作品であるなと。表現がこなれてきて、洗練されていたけど、訴えたいものやテーマの核みたいなものは変わっていないように感じた。