フリントは風に舞う。

アニメ語りメイン。出崎、富野好き。実写は目下勉強中。

小津安二郎の代表作『東京物語』 家族のリアリティと残酷性

 

 富野監督は『映像の原則』小津安二郎をベタ褒めしています。インタビューでも「演出家として小津の影響を受けた」と名言しています。なので富野をより深く理解するために「小津作品はチェックしとかないとイカンなー」と前々から思っていました。そういうわけで、小津作品でいちばん有名な『東京物語』を視聴した次第です。

 

本作で小津が描きたかったのは「日本における家族のリアリティと残酷性」だと推察します。最も象徴的なキャラクターが長女・「志げ」でしょう。彼女の両親へのぞんざいな扱いときたらもう。父に「長生きしないとダメよ」と言った直後にサラッと「お母さんじゃなくてお父さんが死んだらよかったのに」と言ったりする。べつに悪気があるわけではない。母の死の際には号泣する。愛情はちゃんとある。

 

両親を愛してないわけじゃないけど億劫に感じる、このような微妙な心情は日本人としては非常に理解できます。そのあたり、60年以上の作品ですが「普遍性」を感じるところ。一方、外国人はこの心情を理解出来るのでしょうか。本作は海外の監督からも人気が高い=共感出来るということで、一応全世界共通として理解出来るのでしょう。

 

映像に関していえば、よく言われているようにローアングルが特徴的でした。必然的にアオリになり、ちょっとした「非日常」的な画角のおかげで、劇的な画面となっています。このローアングルは、畳で生活している日本だからこそより活きる手法といえます。仮に欧米の家庭をローアングルで撮ったとしても、ここまで劇的な効果はあげられないでしょう。「日本の家庭のリアリティ」を描いた本作。「表現と内用は不可分」という言葉があるように、描くべき内用(テーマ)と表現手段が合致していた点は評価が高いです。本作『東京物語』が小津安二郎のいちばんの代表作と言われるゆえんも、そこにある気がします。

 

 

その他メモ

  • 原節子が演じた紀子は、理想的な日本の古き良き女性。
  • 主人公のじいちゃん演じる笠智衆は、その当時49歳。全然見えない!
  • 好きなシーンは、おばあちゃんが土手で孫と遊ぶシーン、じいちゃんが旧友と酒を飲むシーン。
  • 基本カメラは動かずに固定。フィルムとしてカチッとした印象。
  • 「墓にふとんも着せられず」「孝行したい時分に親はなし」の台詞が身にしみた。孝行しないとなぁ……。
  • 母親が死ぬところをあえて見せない(夜明けの風景を見せて時間を跳躍させていた)のは「粋」だなと。
  • おっさん、じじいになってから観るとツラそう。

 

むすび

物語としては非常に地味です。派手なアクションがあるわけでもないし、泣かせにきているわけでもない。淡々とした語り口から、日本の家族のリアリティが映し出すことに重点が置かれています。「評価」としては高いですが、「好み」という点では、「悪くはない」といったところ。