フリントは風に舞う。

アニメ語りメイン。出崎、富野好き。実写は目下勉強中。

吉浦康裕監督 『サカサマのパテマ』 レビュー

 

サカサマのパテマ 通常版 [DVD]
 

 

公開年:2013年11月

監督・脚本・原作:吉浦康裕

 

吉浦康裕は「次期アニメ界を担う期待の若手アニメ演出家」というイメージ。吉浦康裕監督作は、『イブの時間』と「アニメミライ2014」の『アルモニ』を見たことがあった。氏のこれまでの作品は、こぢんまりした――というと言い方は悪いが、パーソナルでマニアックな方向性のものが多かった。でも、本作は「エンターテイメント作にしよう」という挑戦の姿勢がうかがえる。

サカサマの描写は驚きに満ち溢れていた。実写では難しいだけに、まさにアニメならではの題材だなと。キャラクターの主観の変化に合わせてカメラが反転するのは、面白い演出だった。

本作は、“ストレスフルな映画”だった。その理由はふたつある。

ひとつは、サカサマの人間がフレームに存在することで、脳が混乱を起こすこと。サカサマの描写は、驚きに満ちあふれていて、非常に新鮮で面白かった。その一方で、「サカサマの人間がいる」と脳が異常をキャッチしてしまい、混乱してしまう。まぁこれはしょうがない部分であるが……。

もうひとつは、お話や描写も含めて、全体的に「シリアス」だったこと。サカサマで落下してしまうのではないかという不安、地上と地下世界――二種族の軋轢、父親が政府に暗殺されていたりと、非常に重たい要素を抱えている。私的には、息抜きとしてもう少し「笑い」が欲しかったなと。本作で少ない笑いのシーンだが、印象に残っているシーンがふたつある。それは、エイジが学校に行くのをパテマが「行かないで」と懇願するシーンと、パテマがパンを落っことすところだ。『イヴの時間』や『アルモニ』でも感じたところで、吉浦康裕監督の笑いは、妙に間の抜けた独特のおかしさがある。僕が吉浦康裕で好きなのは、世界観やキャラクター描写ではなく、そういった笑いの部分だ。そういった意味でも、もっと笑いが欲しかった。