フリントは風に舞う。

アニメ語りメイン。出崎、富野好き。実写は目下勉強中。

『河童のクゥと夏休み』を観た

 

河童のクゥと夏休み [Blu-ray]

河童のクゥと夏休み [Blu-ray]

 

 

公開: 2007年7月

監督:原恵一
脚本:原恵一
原作:木暮正夫
キャラクターデザイン・作画監督 - 末吉裕一郎
音楽:若草恵
アニメーション制作 - シンエイ動画

原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』を観た。懐かしさもありつつ、心が温かくなるような良い映画だった。

物語はタイトルから連想させられるように、平凡な男の子が河童と出逢い触れ合い、価値観を広げつつ成長し、やがては哀しき別れを迎えるという普遍的なものである。でも、普遍的だからこそ、共感しやすいし、感情移入しやすい。子どもから大人まで幅広く楽しむことができる。

個人的には「日常感」がよかった。あんまりアニメアニメしていないというか。気になる女の子に対して素直になれず「ブス」と言ってしまうような小学生像や、家族の描写も「ありそうな感じ」でリアリティがある。とくにお母さんが妙に人間臭くてよかった。はじめてクゥに接する上原家のリアクションも、まるで子犬を拾ってきたかのような感じでいい。

クゥとの物語と並行して、紗代子との触れ合いも描かれる。紗代子関係の話は、意外と重くて驚いた。イジメだけでもツラいのに、のちのち両親がそれぞれ不倫していることが発覚する。クゥの物語だけでも成立しそうだけど、この紗代子の存在が映画に深みを与えていた。

本作でもっとも印象に残っているシーンも、この紗代子が絡んでくるシーンである。紗代子が康一に感謝を告げ感極まって泣き出すシーンだ。今までポーカーフェイスだった紗代子が感情を露わにするのも驚きだが、それよりも康一のリアクションが印象的だった。急に泣き出されて、どう声をかけたらいいのか分からない、でも彼女は明後日にいなくなってしまう、でも恥ずかしくて素直な気持ちを伝えられない……そんな複雑な感情が交錯して、結局康一は逃げるように去っていく。このあたり「分かるなー」と共感して見ていた。

クゥと一緒に田舎にカッパを探しに行くくだりは、ロードームービーっぽかった。バイクではなく自転車だけど。保護者なしでひとりで遠出に行くというのは子どもにとってはちょっとした「冒険」であり、川や田んぼ道の光景も美しく、そのあたり「夏休み感」を堪能できた。子どもの頃の記憶が蘇って、懐かしさを感じた。

クゥが逃げ出して東京タワーに行くくだりは、「オトナ帝国」を彷彿とさせる。

本編視聴後、とあるレビューを発見した。一部文章を引用する。

不思議なことに、膝をついて挨拶をされると、される側も膝をついて同じく頭を下げる。礼儀正しさは相手からも礼儀正しさを引き出す。
河童の子供はそれができるのに、人間の側は携帯カメラを向けるばかり。犬の「おっさん」が車にはねられても、誰も助けようとせず、取り囲んで携帯で撮影を続ける無神経さが逆に生々しい。

クゥの物語には、世界の存亡にかかわる秘密はなく、戦うべき敵も存在せず、都市が破壊されるようなダイナミックなシーンもない。
ただひと夏、河童の子供が家に来て、そして別れが訪れる。それだけのこと。
それだけなのに、何度も何度も涙がこぼれるのは、クゥの心がまっすぐ観るものの心を打つからだ。悲しみも喜びも飾り気なく、大きな黒い目が涙を浮かべるごとにこちらも涙があふれてくる。

(「河童のクゥと夏休み」 何度も何度も涙がこぼれる)
http://animeanime.jp/article/2007/07/30/2066.html


そのとおりなだー、と納得した。